仙台高等裁判所 昭和25年(ネ)6号 判決
原判決中、石川町大字八幡舘高沢田六三番地一号田二十七歩の買収計画を取消した部分を取消し、右田二十七歩の買収計画の取消を求める被控訴人の訴を却下する。
原判決中同上宅地八十四坪の買収計画を取消した部分に対する本件控訴を棄却する。
訴訟の総費用中参加人の参加によつて生じた部分はこれを三分しその一を被控訴人、その二を参加人の負担とし、その他はこれを三分しその一を被控訴人、その二を控訴人の負担とする。
二、事 実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の本訴請求中田二十七歩に関する部分の訴を却下し、その余の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、被控訴代理人において、
一、本件買収計画公告の日時は(イ)の田地の分が昭和二十一年五月三日、(ロ)の宅地の分が同年九月二十一日である。本件訴願裁決書が被控訴人に到達したのは昭和二十四年五月四日である。
二、(イ)の田地は右買収計画当時、農地とは認められない状況にあつた。また(ロ)の宅地については訴外佐藤平内から買収の申請がなかつたものである。
と述べ、控訴代理人において
一、(イ)の田地二十七坪の買収計画については被控訴人から異議申立がなく、直ちに県農地委員会に訴願したのであるが、右訴願は不適法なものであるから、右田地の買収計画の取消を求める訴の出訴期間は右訴願裁決の時からでなく、取消の対象たる買収計画の時から進行するものと解しなければならない。従つて右(イ)の土地の買収計画の取消を求める訴は不適法として却下すべきである。
二、被控訴人主張の前記一の事実は認めるが、二の事実は争う。本件(ロ)の宅地につき訴外佐藤平内から昭和二十三年九月二十二日買収申請があつたのである。
三、原判決摘示の被控訴人の主張事実中、本件係争地がもと被控訴人の所有であつたこと、佐藤養作の死亡及び相続の点、(イ)の土地を佐藤養作が被控訴人から賃借したこと(但し目的及び契約内容は不知)、(ロ)の宅地を右養作が被控訴人から建物所有のために賃借し、地上に建物を建築し爾来これに養作及びその養子平内が居住していること、(イ)の田地につき買収計画をたてるに際し被控訴人主張の田四反一畝十六歩を小作地として被控訴人の保有面積に算入したものであつて、右四反一畝十六歩を差引くと被控訴人保有の小作地の面積が九反一畝二十一歩となること、以上の事実は認める。右田四反一畝十六歩の賃貸借が一時的のものであつたこと及び佐藤平内の売渡を受けた農地と本件(ロ)の宅地との距離の点は争う。右の距離は徒歩で五分位を要する程度である。
四、原判決摘示の控訴人の主張事実中「本件宅地八十四坪は……不可分一体の関係にあり」(原判決五枚目表三行目以下)とあるのは、本件(ロ)の宅地が佐藤平内の農業経営上欠くべからざる宅地であるとの趣旨である。と述べたほか、原判決事実摘示と同じであるから、こゝにこれを引用する。(証拠省略)
三、理 由
第一、被控訴人主張の(イ)の田二十七坪の買収計画取消請求について
被控訴人所有の右田地につき、控訴人が自作農創設特別措置法(以下自創法という)第三条第一項第三号の保有面積を超過する田地なりとして買収計画を立て、昭和二十三年五月三日これを公告したこと、被控訴人が右買収計画につき控訴人に対し異議申立をしないで、昭和二十三年十月十二日後記(ロ)の宅地の買収計画に対する分と併せて青森県農地委員会に訴願をしたが棄却され、その裁決が昭和二十四年五月四日被控訴人に到達したこと、以上の事実は当事者間に争がない。よつてまず右田地買収計画の取消を求める本訴の適否につき按ずるに、被控訴人は右買収計画につき法定期間内に町農地委員会に異議の申立をしないで、買収計画の公告後五ケ月以上を経てから、いきなり県農地委員会に訴願したのであるから、この訴願が不適法であることはいうまでもない。たとえ訴願庁である県農地委員会が右の訴願を不適法として却下することなく、これにつき実体上の判断をしたからといつて、本来不適法な訴願が適法化されるものではない。されば右買収計画の取消を求める本訴は、結局適法な異議訴願を経ないで提起されたものといわざるを得ない。しかも適法な異議訴願を経なかつたことにつき正当の事由の存することはこれを認めるに足る資料はないのみならず、法定期間経過後の訴願、又は右のように異議の段階を経ないでなされた訴願など本来不適法な訴願について裁決があつたにしても、その裁決は行政事件訴訟特例法第五条第四項の「処分につき訴願の裁決を経た場合」にあたらないものと解すべきであるから、(このことは訴願庁が訴願の不適法である点を看過し実体につき判断を与えた場合でも同様である)、前記買収計画の取消変更を求める訴の出訴期間は前示裁決の日にかゝわることなく処分のあつた日から進行するものといわざるを得ない。本訴の提起されたのは、右買収計画公告の日から一年以上を過ぎた昭和二十四年五月二十三日であることは記録上明白であつて、以上いずれにしても右(イ)の田地の買収計画の取消を求める本訴は不適法たるを免れない。従つて原判決中被控訴人の右取消請求を認容した部分は失当であるから、この部分を取消し右の訴を不適法として却下すべきであり、右の部分に対する本件控訴は理由ありとせざるを得ない。
第二、被控訴人主張の(ロ)の宅地八十四坪の買収計画取消請求について、
控訴人が被控訴人所有の右宅地につき、自創法第十五条第一項第二号により(右宅地は自創法第三条により買収された田畑八反数畝歩の農地について自作農となつた訴外佐藤平内が賃借権を有するものなりとして)、買収計画を立て、昭和二十四年九月二十一日これを公告したこと、被控訴人が右買収計画に対して同年九月二十九日控訴人に異議を申立てたが却下され、次いで県農地委員会に訴願したが棄却され、その裁決書が昭和二十四年五月四日被控訴人に到達したこと、右宅地は佐藤平内の養父佐藤養作が昭和二、三年頃被控訴人から建物所有の目的で賃借しその地上に住宅を建て、これに居住していたもので、平内は昭和二十三年四月一日養作の死亡により養母と共に遺産を相続して右賃借権を承継し、引続きこれに居住していること、平内は自創法第三条により買収された田約八反数畝歩につき自作農となつたものであること、以上の事実は当事者間に争がない。
被控訴人は右宅地については佐藤平内から政府において買収すべき旨の申請がなかつたと主張するが、当審における控訴委員会代表者白取善三尋問の結果によれば、平内から右宅地の買収申請があつたことを認められる。そこで右平内の宅地買収申請が相当と認め得る場合にあたるかどうかの点について考察するに、自創法第十五条第一項第二号の規定による宅地等の買収申請を相当と認めるべきかどうかは、当該宅地とその買収申請者が売渡を受け又は受けるべき農地との関係、その他諸般の事情を参酌考量して判定すべきであつて、その宅地が自作農となるべき者の農業経営に利用されていさえすれば、右第十五条第二項列記の買収除外事由の存しない限り、すべて買収することができるものとすることは早計たるを免れないものというべきである。即ち同条第一項第二号には「第三条の規定により買収する農地又は第十六条の命令で定める農地につき自作農となるべき者が賃借権……を有する宅地」とあつて、同項第一号のように「第三条の規定により買収する農地又は第十六条の命令で定める農地の利用上必要な」という文言はないけれども、もともと同法第十五条による買収は、同法第三条以下の規定による農地の買収に附帯するものであつて、解放農地の売渡を受けるべき者にのみその買収申請が認められていること、右第十五条によつて買収売渡された宅地建物等についても同法第二十九条第二項により同法第二十八条の規定が準用されているから宅地建物等買収の基本となつた解放農地について自作をやめようとするときは買収売渡された宅地建物等も政府の先買権の発動を免れないことなどの点から考えると、同法第十五条第一項第二号による宅地の買収申請を相当とするためには、単に同条第二項の除外事由がないばかりでなく、当該宅地と解放農地との間に利用上密接な牽連関係が存することを要するものと解するのが相当である。
ところで成立に争のない甲第七号証、同第八号証の一、二、同第九号証の一乃至四同第十号証、乙第五号証同第六号証の一、二、原審証人渋谷春吉、成田豊次郎、佐藤平内の各証言、原審における検証の結果、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果を綜合すれば、次の事実が認められる。即ち、前記佐藤平内の養父養作は被控訴人の妻と従弟の間柄であつて、かつて北海道に移住し十数年間同地で開墾に従事したが、失敗して昭和二年頃殆んど無一物で郷里に帰り被控訴人方に身を寄せた。被控訴人は養作の悲境に同情し当時田地であつた係争地に地盛をして宅地としその地上に住宅を建築して養作一家を居住させ、養作は売薬業を営み、右住宅の対価として毎月若干づゝを被控訴人に支払つたので右家屋は数年後に養作の所有にされたこと、養作は売薬業で相当成功を収め昭和八年頃から若干の畑を手に入れこれを耕作し、更に昭和十七、八年頃から田地を賃借して耕作するようになつたが、売薬業の方は依然副業としてこれを営み、養作死亡後は平内においてなお農業のかたわらこれを続けていること、係争宅地は大鰐町から約十数町を隔てた地点にあたり、県道に面し、近くにバスの停留場のある交通利便の地で附近に家屋が立並んでいる田舎街の一部を形作つていること、平内は係争宅地上の家屋に居住すると共にこれを農耕の用に供しているのであるが、同人が売渡を受けた開放農地は数ケ所に散在しており、係争宅地から徒歩で十分乃至十五分位を要する場所にあること、なお本件宅地の賃貸借関係については佐藤養作と被控訴人との間に昭和二十二年八月七日成立した調停において養作の賃借権が確認され、借地人としての地位に格別不安のないこと、以上の事実が認められる。成立に争のない乙第七号証その他控訴人の全立証によつても、いまだ上記の認定を妨げるに足りない。
以上認定に係る諸般の事情からみて、佐藤平内の売渡を受けた農地と係争宅地との間にはその利用上密接な牽連関係があるものとは認め難いからして、同人のした係争農地の買収申請は相当でないものと認めるべきである。されば右と同じような趣旨の下に(ロ)の宅地八十四坪の買収計画の取消を求める被控訴人の請求を認容した原判決は相当でこの部分に対する本件控訴は理由がない。
よつて民事訴訟法第三八四条、第三八六条、第九六条、第八九条、第九二条に則り主文のとおり判決する。
(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 猪狩真泰)